ミスタージャイアンツと一期一会
- 西敬寺
- 6月8日
- 読了時間: 2分
「一期一会」とは、仏教の無常観に根差した言葉です。
すべてのものは移ろいゆき、いま目の前にある出会いや出来事は、二度と同じ形では訪れません。だからこそ、目の前の瞬間を大切に生きること。それがこの言葉の本質です。
プロ野球界において、この「一期一会」を体現していた人物が、ミスタージャイアンツ、長嶋茂雄さんです。彼は一流のプレーヤーであると同時に、観客を楽しませる“プロ”の精神を強く持っていました。
「今日球場に来た人の中には、一生に一度しか観戦できない人もいるかもしれない。だから手を抜くわけにはいかない」と語ったことでも知られます。
お小遣いを貯めて来た子どもがいるかもしれない——そう思って、いつも全力でプレーする。それが長嶋さんにとっての「プロ」だったのです。
実は私にも、その“一期一会”を肌で感じた忘れられない思い出があります。
子供の頃、横浜スタジアムで選手の球場入りを見ていたときのこと。他の選手たちは、いくら声をかけても車の窓を閉めたまま素通りしていきました。それが当たり前の光景でした。
ところが、長嶋監督の乗った車が駐車場に入った後、なんとバックでゆっくり戻ってきたのです。驚いて見ていると、後部座席の窓がスッと開き、長嶋さんが笑顔で顔を出しました。そして、「君たち、野球好き?今日は頑張るからね!」と声をかけてくれたのです。
その時の出来事が、まるで映画のワンシーンのように今も記憶に焼き付いています。巨人という球団はあまり好きではなかったのに(ファンの方、すみません、、、)。それ以来、ミスタージャイアンツだけは大好きになりました。
何気ないやりとりに思えるかもしれません。でも、その瞬間は間違いなく「一度きり」の出会いであり、私にとって一生忘れられない出来事となったのです。
きっと長嶋さんには、「その日そこにいた誰かの人生に何かを残せたら」という思いがあったのではないかと思います。
日々の暮らしの中でも、私たちはさまざまな出会いや出来事に囲まれています。それらの多くは、気づかぬうちに過ぎ去っていきます。しかし、「この瞬間は二度と戻らない」と思えたとき、何気ない日常が特別なものに変わります。
長嶋茂雄さんのプレーやふるまいは、まさにそうした“かけがえのない一瞬”を生きる姿勢を教えてくれます。私たちもまた、日々の一期一会を大切にしたいものです。
6月3日、長嶋茂雄さんが89歳を一期にご往生されました。心より哀悼の意を表します。
合掌

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